平昌オリンピックで金メダルに輝いた15歳のザギトワ。ジャンプをすべて基礎点の高くなる後半に入れた演技は圧巻だったと同時に、多くの議論をも巻き起こし、国際スケート連盟はルール改正を示唆している。フィギュアスケートとは“技術”なのか、“芸術”なのか、それとも――。いま一度、その本質を考えたい。
技術偏重にもみえたザギトワの演技構成
ハイレベルな激闘を制し、平昌オリンピックのフィギュアスケート・女子シングルで金メダリストとなったのは、アリーナ・ザギトワ(ロシアからの五輪選手、OAR)だった。
共にエテリ・トゥトベリーゼ コーチの門下生であるエフゲニア・メドベデワ(OAR)との熾烈な争いを制する決め手となったのは、基礎点が1.1倍になる後半にすべて(ショート3本、フリー7本)のジャンプを跳ぶ攻撃的な演技構成だ。表現力に優れ、演技構成点が高いメドベデワに今季シニアデビューした15歳のザギトワが勝つためには、技術面で圧倒する必要があった。
ショート2位のメドベデワはフリーで、後半に予定していたコンビネーションジャンプをプログラムの冒頭に跳ぶ構成に変更している。一方ザギトワは、フリーでもすべてのジャンプを後半に跳ぶ構成を完遂。最初に予定しながら単発になってしまったコンビネーションジャンプも再挑戦して成功させ、圧倒的な技術力を発揮して女王となった。
ジャンプをプログラム後半に跳ぶスケーターとして最初に強い印象を残したのは、メドベデワだ。一昨季シニアデビューするとすぐに世界トップに駆け上がったメドベデワの武器の一つが、後半にたたみかけるように決めてくる正確なジャンプだった。メドベデワは平昌オリンピックでも、ショートではザギトワと同じように3本のジャンプをすべて後半に跳んでいる。
ただフリーでもすべてのジャンプが後半に組み込まれているザギトワの場合は特に、7本のジャンプを立て続けに跳ぶことになるため、構成として偏っている印象も与える。さらにメドベデワのフリー『アンナ・カレーニナ』は、定評のある表現力がドラマティックな曲の中で存分に発揮されるプログラムだった。そのため最終滑走のメドベデワを見た後には、ジャンプが詰め込まれたザギトワのフリー後半の、技術偏重にもみえる印象が増幅されたのかもしれない。
芸術性を高めてきたワグナーの問題提起
アメリカのスケーター、アシュリー・ワグナーは、平昌オリンピック団体戦で女子フリーに出場したザギトワの演技を見て、その構成に疑問を呈している。Twitterで「競争心旺盛なアプローチには敬意を表します」とした上で、「プログラムではない。彼女は前半では時間をつぶし、後半でジャンプをした。演技ではない。採点システムがそうさせるのだろうけれど、これはフィギュアスケートのすべてではありません」と述べている。
2016年世界選手権で銀メダルを獲得しているワグナーは、豊かな表現力を持つスケーターだ。2017年世界選手権で優勝したメドベデワが、ショートプログラム後の記者会見で芸術面に長けた選手としてワグナーの名前を挙げていることからも、彼女の芸術性が世界トップレベルの選手の間でも高い評価を受けていることが分かる。信念を持ってフィギュアスケートの芸術性を高めてきたワグナーだからこそ、物議を醸すことを承知で問題提起をしたのだろう。
平昌オリンピックの代表にはなれなかったため、今大会については当事者ではなく、しかし現役選手でもあるワグナーにしかできなかった行動ともいえる。Twitterで「採点システムに合わせて演技している彼女を責めることはできない」とも述べているように、ワグナーがしたかったことはザギトワ本人への批判ではなく、プログラム全体の完成度をバランスよく上げるのがフィギュアスケートの王道だと訴えることだったのだろう。
ワグナーの意見が彼女だけのものではなかったことは、平昌オリンピックでの競技終了後すぐのタイミングで、国際スケート連盟(ISU)がルール改正の提案について明らかにしたことからもはっきりしている。6月の総会で、後半のジャンプ数を制限し、偏りをなくすことを促すルール改正を提案するという。
4年後の北京五輪に向けて、ルール改正を示唆したISU
トゥトベリーゼ コーチの門下生たちは、現在の採点システムの中で高得点を獲得することに特化して振り付けられたプログラムを滑っている。ジュニアでも彼女たちは圧倒的な強さを誇っており、今季のジュニアグランプリファイナルに出場した6人中、紀平梨花以外の5人のロシア勢のうち4人がトゥトベリーゼ コーチの教え子だった。そして、優勝したアレクサンドラ・トゥルソワを含む3名でメダルを独占している。どの選手のプログラムも、後半にジャンプが多く組み込まれる構成だった。
平昌オリンピック日本代表の坂本花織は、ザギトワが優勝した昨季のジュニアグランプリファイナル・世界ジュニア選手権で銅メダルを獲得している。ジュニア時代から圧倒的に強いロシア勢と世界で戦ってきた坂本は、当時から彼女たちがジャンプを後半に集中させるプログラムで高得点を出すのを見てきた。今季のプログラムを振り付けてもらう際、坂本は「ジャンプはできるだけ後半にしてほしい」と伝えたという。
今季の坂本のショートプログラム「月光」は、後半にすべてのジャンプが組み込まれている。静かに始まり少しずつ激しくなる旋律の中で、坂本が持ち味である幅のある大きなジャンプを跳ぶ。得点を上げるための構成と芸術性が共存しているプログラムだが、それはジャンプが3本に限られるショートだからかもしれない。フリーで7本のジャンプがすべて後半に入ってくると、立て続けにジャンプばかり跳んでいる印象になることは否めない。
ジャンプを後半に集める構成は、特にジュニア世代ではもはや当たり前となっていたが、オリンピックの金メダリストとなるとまた意味合いが違ってくる。ISUがルール改正の可能性を示唆したのは、その影響を考慮してのことだろう。北京オリンピックに向かうこの後の4年間で、プログラム後半にジャンプを集める傾向が定着するのは好ましくないとする姿勢の表れだといえる。
ただ、プログラム後半のジャンプに加点が与えられるのは、体力が消耗する後半にジャンプを成功させることは難しく、それを達成したスケーターは評価されるべき、という価値観に基づいている。ショートで首位に立ち、優勝が懸かったオリンピックのフリーで、一度は単発になった3回転ルッツ―3回転ループの難しいコンビネーションジャンプも含め、すべてのジャンプを加点がつく出来栄えで成功させたザギトワの心身の強さは驚異的だ。今後ルールが変更されたとしても、現行のルールの中で最も難しいプログラムに挑み、見事にやり遂げたザギトワの金メダルの価値が損なわれるわけではない。
羽生結弦はルール改正についてどう答えたか?
平昌オリンピックで男子シングルの連覇を果たした羽生結弦は帰国後の記者会見で、ジャンプなどの技術と芸術性のバランス、またISUがルール改正をしようとしていることについて聞かれ、次のように答えている。
「もしかしたら来シーズンから大きなルールの変動があるかもしれないということは聞いています。芸術がものすごく必要である競技であるがゆえに、技術的なものが発達しすぎると『その技術にふさわしい芸術が足りない』ということをよくフィギュアスケートではいわれます。ただ、バレエとかミュージカルとかもそうですけれども、芸術というのは明らかに正しい技術、徹底された基礎によって裏付けされた表現力であって、それが足りないと芸術にはならないと僕は思っています。
だからこそ僕はジャンプ・ステップ・スピンをやる際、すべてにおいて正しい技術を使い、そしてそれを芸術として見せることが一番大切なことだと思っている。もちろん『ジャンプがすごく大事』という人もフィギュアスケーターの中ではたくさんいるし、それで勝ってきている人もいます。ただ僕は、難しいジャンプを跳びつつ『それがあるからこそ芸術が成り立っているんだな』というようなジャンプをこれからもしていきたい」
羽生が指向する「ジャンプも含めトータルで芸術的な演技」こそ、フィギュアスケートの理想的な在り方だろう。選手はあくまでもルールの中で結果を残さなければならず、その演技の方向性はルールによるところが大きい。ルール改正によりプログラム全体の完成度が重視される方向に向かえば、4年後の北京オリンピックではスポーツと芸術の融合であるフィギュアスケートのさらに進化した姿が見られるだろう。
ソース:https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180303-00010001-victory-spo
ヤフーコメント
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qua*****
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後半ジャンプ固め打ちもそうだけど、ジャンプ全て手上げもどうかと思う。コンビネーションに組み合わせるならまだしも全てタノだと飽きてくる。たいして美しくもない。
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ino*****
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タノジャンプも見直してほしいな
両手タノで決められると綺麗なんだけど、片手タノなんかイヤミのシェーにしか見えなくて全然綺麗じゃない
正直スケーティングが上手くなくてもPCS高かったり、この人の方が上手いのにPCS低いってのも多々あるのどうにかしてほしい
あの辺はジャッジの好みなのかな…審判一人一人教育し直してくれ -
jbd*****
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ルールの中での演技をしたので今回は問題ないと思うがそれが無かったらロシアの二人の順位は入れかわっていたかもしれない。
ただ個人的には曲が流れている以上バランス良く曲を捉えた演技をを希望します。
フィギュアスケートは芸術性も多分にあるはず。後半にJUMPが苦しくなるのもわかるが全て後半とゆうのもどうかと思う。ルールの変更を望みます。 -
ばけばけばけららった
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後半にジャンプだらけは賛否両論あるけども、結果、それをミスなく滑りきったザギトワ選手はすごい
ルール改正されても安定感のある演技は変わらないでしょうね
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ぴょろん
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採点競技はあれっ?ていう疑問点が多いからスッキリしない。特に女子、当時のキムヨナの体カチカチ演技に最高得点とか。今は1点でも点を稼ぐ方法が見え見えで飽きてきた。トリプルアクセルの価値も低すぎで?だし。
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khm*****
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ザギトワは、後半固めうちジャンプだけで勝ったわけではない。
ジャンプの種類も、ルッツがショートとフリーで3回、ループもコンビネーションのセカンドジャンプで跳んでいる。
メドベージェワは、ルッツは1回だしセカンドジャンプはトーループで基礎点が低い。
長々とコラムを書くなら、こういうこともキチント書かないと誤解が生じる。
ジャッジの主観や競技歴で左右される演技構成点は、ワグナーのようなベテランが有利。実績の乏しい若手は不利。
スポーツである以上、難しいことをやった人が評価されるのは当然のこと。嫌ならプロに転向すればいい。 -
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羽生選手の答えが全てですね。
芸術的「だけ」だとちょっと技術「だけ」だとちょっと、、、。両方兼ね備えたスケーティングをする選手を育てたいのでしょうねルール改正する人達は。
実際見ててもどちらかに偏ってると1分も見てられない。ザギトワの演技は言われるほどでは無かった。
自然に見えたけど。
無理に詰め込んだとしても違和感無く魅せれるのも技術芸術だと思う。 -
daidai*****
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技術偏向の面よりも
ジャンプにおいて体格的に有利な
ガリガリの選手か
幼くて骨格の未熟な選手が
活躍している現状が気になる。選手がかなり無理をして、
未熟な体を酷使し無理をしている。まだ二十歳なのに引退とか、
足腰の疲労骨折を起こして潰れてしまうとか
なんとかならないのか?
芸術性の比重が高いダンスはともかく
シングルはほどほどの体型維持の中で
競わせても良いのではないか。
BMIを測定させ
制限したほうがいいのではないか? -
amu
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どっちにせよ体力と技術両方ある15歳という年令だから出来たこと。真央ちゃんだって15歳の時は3-3-3とか出来たし。
それが出来うる時にそれを武器にするのを悪いとは思わない。それが勝負の世界だと思う。 -
kir*****
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芸術は審判の主観に大きく左右される可能性もあるので
中々採点が難しい所もある。
高難度の技術点を下げると、難しいジャンプに挑戦する
人が減る可能性もある。(技術ありきの)芸術ということも分かりますが、これが
いいバランスだという線引きは難しいですね!!
mdp*****
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改正するなら5種類の3回転ジャンプを全種類成功したら合計得点に何点かプラスするルールも作って欲しい。得意なジャンプだけで固めて苦手を回避する選手(キムヨナもそうでした)よりも、真央ちゃんのように苦手なジャンプの矯正に真面目に取り組んだ選手が報われて欲しいです。
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hel*****
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個人的には、曲に合っていて芸術的に見えれば前半だろうが後半だろうが良いと思う。
ショートはそんなに違和感ないと思うけど、
フリーで後半に全てのジャンプを構成してくるには、選曲や全体的な構成や表現力がないと厳しいかもしれませんね。今回、日本女子の坂本花織選手も
ショートプログラム後半に全てジャンプを入れてましたが、とても曲に合っていて素晴らしいと思いました。
前半は月光(ベートーベン)の第1楽章から静かに始まり、後半は第3楽章でスピード感と情熱的な感じが表現されているなぁと感じました。私は音楽と演技が融合した時に鳥肌が立ちます。w
芸術鑑賞をしている気分になれるフィギュアスケーターが大好きです。 -
i*****
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ザギトワが金メダルとったからではないでしょ。オリンピック後に大規模なルール改定があるのは毎度。
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mic*****
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技術=ジャンプだと思ってる人が多いのかな、選手も含めて
フィギュアスケートの技術を語るなら、細かいステップのレベル差を、もっと点数に反映してほしい -
lyy*****
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浅田真央が、バンクーバー五輪でキムヨナに負けた時から、女子フィギュアの進化は止まった。
失敗を恐れず果敢に
トリプルアクセルに挑戦するよりは、トリプルルッツのコンビネーション止まり。
ゆえに後半にジャンプを集約する事ができると考える
男子は進化し続けるが、女子は8年前から進化せず‥‥スポーツとしての女子フィギュアスケートにはチャレンジが見受けられず、面白さも感動もない
羽生結弦が語った確たる技術の上の芸術。を考えて欲しい -
hid*****
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難しい事は良く分からないが
頂点で滑るって
その両方兼ね備えないとたどり着けないのじゃないのかな? -
sug*****
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ただ運動神経を競う競技になってしまうのは少し寂しいかな。
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minik
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ザトギワ選手を取り上げて後半のみジャンプのプログラムを批判するのは賛成できない。彼女のプログラムは非常に良く構成されていて、後半のジャンプ尽くしは曲の盛り上がりに沿って爽快に繰り広げられ、前半のステップ、スピンも濃厚で見応えがあり芸術的にも優れている。羽生選手の後半に2つのジャンプのみのエキジビションプロもしかり。
しかも、後半のみのジャンプ構成で失敗プログラムが続出したわけでもない。点は積めても完成出来ずに不格好なプログラムになることを選ぶような選手はいなかったいうことだ。逆に現行では前半のみにジャンプを集めたプログラムも可能なわけで、現在の自分の能力に合わせた美しく完成されたプログラムにすることが出来る。
要するに彼女だけの能力で得た結果を否定するのは間違っている。
それよりも、ショーではなく競技である以上、技術なくとも選手によって常に与えらる高い芸術点に疑問を感じる。 -
rerere******
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技術点も芸術性も高い演技が最高です
後半ジャンプかため打ちも自分は嫌いじゃない
むしろミスをしないザギトワさんの凄さに敬服してしまった。
ただバンクーバー以降のPCSの盛り方には疑問というか
ISUのただならぬ意図を感じすぎてしらけることがあるあとTESでは
男子の4-3、3Aに組み込んだコンビネーション
女子の3-3など
これ、後半は1.1倍になるけど、他にも
ジャンプの組み合わせによってボーナス点つけられないのかな
たとえば4Lz-3Tと単独ジャンプ4T
4T-3Tと単独ジャンプ4Lz
同じスコアになるけど、難しさが違うから不公平を感じてしまう。 -
hid*****
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男子でも四回転をたくさん入れて基礎点を高くする選手多いでしょ?ジャンプも大事だけど曲の主旨にあわせてどう表現するか?ってのも大事で。フェルナンデスは表現が豊かだから観ていて綺麗だし面白い。羽生くんも難易度だけではなく表現が上手いから評価される訳で…スポーツと言ってもフィギュアや体操やスノボーなどは芸術要素が必要だよ