地元・仙台で行ったパレードでは10万人以上の人を集めるなど、シーズンのオン・オフを問わず注目される存在となった羽生結弦。彼がこれほどまでに人気を集める理由は、どんなところにあるのだろうか。
悪いときや苦しいときを見せてきた。それが、フィギュアスケート男子の羽生結弦がここまでの人気を得た大きな理由の一つだ。
苦しんでいる人の姿は、他者の印象に残る。悪いときにどう振る舞うのかを、人はよく見ている。2014年ソチ五輪で金メダルを獲得し、フィギュアスケートファン以外にも知名度を高めた直後の14~15年は、羽生にとって良くないことが立て続けに起きたシーズンだった。
11月のグランプリ(GP)シリーズ中国杯では、フリースケーティング(FS)直前の練習で他の選手と衝突した。頭に包帯を巻いた姿で演技を始めると、5度転倒。その後、キス&クライで泣き崩れた。
その後、帰国した羽生は車いすで空港の到着ロビーに姿を現す。スポーツ選手がけがをした場合、「REST(休むこと)」が重要だ。足を負傷した場合は極力、使わないようにするために車いすを使うこともある。とはいえ、多くの人には車いす姿はショックだったかもしれない。
その直後に出場したNHK杯で4位になり、表彰台を逃した。それら一連の出来事は、メディアで繰り返し伝えられた。
そんな悪いときでも、羽生はメディアに対してよく話をする。悪かったとき、失敗したときのほうが面白いことを言うので、報道量が減らない。うつむいて何も語らないよりも、記事は大きく目立つ扱いになる。
NHK杯では、出場したことに後悔はないかと問われた。羽生は「正しかったと思う」と、きっぱりと言った。「逆境は嫌いじゃない。弱くなっている自分はほんとに嫌い。でも、弱いというのは強くなる可能性がある」という印象的なフレーズも残した。
そのシーズン、痛みを感じ続けていた腹部を全日本選手権後に精密検査すると、「尿膜管遺残症」と診断され手術を受けた。療養期間を終えて練習再開したと思ったら、右足首を捻挫した。
日本国民の誰もが知る五輪王者は、苦境の中で3月の世界選手権に出場し、ショートプログラム(SP)で首位となり、総合でも銀メダルを獲得した。
平昌五輪シーズン最初の試合だった17年9月のオータム・クラシックでは、SPでいきなり世界歴代最高得点を更新する112. 72点を出した。翌日のフリーでは、一転、8本中5本のジャンプでミス。このときも、フリー後のほうが多弁で、感情を隠そうとしなかった。
フリーを演じ終えた直後の氷上で「もう、しょうがねえっ」とつぶやいたことを明かした。大会運営の担当者が、報道陣に「最後の質問」と告げても、羽生自身が「あと2問」というしぐさをして質問を受け付けた。そして、「悔しさという大きな収穫を手に入れることができた。強い自分を追いかけながら追い抜いてやろうと思う」「いい時と悪い時との差が激しいのは、スケート人生での永遠の課題。ガラスのピースを積み上げて、きれいなピラミッドにするんじゃなくて、粗くてもいいから頂点まで絶対にたどり着けるような地力も必要だ」と、独特の言い回しが飛び出した。
羽生は、他にも多くの苦境を経てきたことが何度も伝えられている。11年3月11日の東日本大震災で被災し、練習拠点のリンクが一時閉鎖。全国のアイスショーを巡り、葛藤しながら練習を重ねた。16年4月には、左足甲付近のリスフラン関節靱帯(じんたい)の損傷が見つかり、16~17年シーズンで出遅れた。難しいジャンプに挑むので、大崩れしてしまうことも珍しくなかった。
そして、平昌五輪シーズンは、17年11月のNHK杯開幕前の公式練習で右足首を負傷して、12月の全日本選手権も欠場。18年2月、平昌五輪は、4カ月ぶりの実戦という状況だった。
ファンは選手が苦しむ姿を見たとき、一緒に苦しい気持ちになるものだ。苦しむ姿を見聞きしたり、悔しがって涙したことを知ったりすると、その選手をぐっと身近に感じ、次の試合では一層応援したくなるだろう。
選手やチームが強くて、プレーのレベルが高く、有名なスポーツほど、多くの観客を引き寄せて会場も熱気に包まれる。ところが、そんな条件が整わなくても熱心な応援が見られるスポーツ大会が、運動会だ。子や孫や親類、その友達を熱心に応援してしまうのは、泣いて笑って、一緒に成長してきた身近な存在だからだろう。羽生の苦しみから立ち上がる姿は、全国に“親類”のように応援するファンを増やした。
トップスポーツでは、全国レベルの人気を獲得するには、まずは有名になる必要がある。それにはテレビメディアの影響力がやはり大きい。ただ、それらは偶然に左右されるし、長続きしない。有名になったうえで、プラスαがある時に、スポーツ選手とチームの人気に火がつく。
プラスαは、見た目がいいこと、発する言葉が面白いこと、スポーツ以外にも共感できる取り組みをしていることなどがある。羽生は見た目もいいし、負けたくない気持ちをむき出しにする点でも楽しませてくれる。そして何より、負けた、失敗した、つらい、苦しいといった物語に事欠かない。
羽生は、そんな人気を得る振る舞いが自然とできるスポーツ選手の一人なのだ。(文中敬称略)(朝日新聞オピニオン編集部・後藤太輔)
ソース:https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20180509-00000056-sasahi-spo&p=3
ヤフーコメント
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adg*****
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なるほど。
運動会とはいい例えですね。
息子はスポーツやってますが、息子の試合を見守る気持ちと、羽生くんを応援する気持ちはよく似てる。
私が代わりに緊張するし、悪い運(怪我するとか)は代わりに受け止める、とまで思える。
息子へそう思うのは当然だが、羽生くんにまでそう思える。
失敗して「ちくしょう」と悔しい顔を見せてくれるのは、まさしく帰宅後の息子と同じ。
なるほどなるほど。
これで何故羽生くんにそこまで応援出来るのか、自分の心に納得がいきました。 -
yam*****
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歯を食いしばり、苦しみの中で耐え抜き自分との勝負をして居たのですね・・・どんなに辛くとも目標に邁進するその執念は真似できるものでは無いですね・・
報道陣も羽生君が心配でどうしても取り上げないと成らないと言う気持ちで日々追いかけたのでしょうね・
此れからも苦しい戦いが付き纏うかもしれないが、
頑張って下さい。そう言う気持ちです。 -
shi*****
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良くも悪くも目が離せない選手
本人の見た目言動立ち振舞い全てが人を惹きつけるスポーツ選手を超えた類稀な存在です -
see*****
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こんなにもドラマティックな感動を与えてくれる、彼との時代を過ごせるのは本当に嬉しく思う。素晴らしいスケーター、表現者だ。
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yuk*****
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羽生選手の不調は、怪我のせいだとわかっているし、彼ならそれを乗り越えて一段と進化した姿を見せていくから、皆気になってしかたないのですよね。
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sor*****
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アスリートとしての競技成績が圧倒的なのはもちろん大前提として
それにプラスαが色々な側面から沢山ある次々ファンが増えてるけど、きっかけが同じ大会からだとしても、とっかかりの入口がそれぞれ違うのが面白い
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min*****
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プラスαが多すぎ!
どれだけハラハラドキドキさせられたことか。
そしてどれだけワクワクキュンキュンやったー!と繰り返したことか。
困ったことにこのハラハラドキドキワクワクが止まらないのです。 -
かなぶん
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>そんな悪いときでも、羽生はメディアに対してよく話をする。悪かったとき、失敗したときのほうが面白いことを言うので、報道量が減らない。
ファンが気にしないように気遣って、わざと明るく振舞ったり面白くしようとしているよね。